ブックタイトルhoardsdairyman_2019_12

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概要

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ARTIFICIAL BREEDING繁殖技術チャドデカウペンシルベニア州立大学乳牛遺伝学准教授遺伝的スーパーカウの登場はいつかゲノム時代の到来から丸10年が過ぎようとしている。この記念すべきタイミングで、2019年全米遺伝学会の会合が全米ホルスタイン会議(ウィスコンシン州アップルトン)で同時開催された。会議ではさまざまなテーマが取り上げられた。たとえばゲノム技術の導入状況の評価、近親交配に伴う課題、エピジェネティクス(後成遺伝学)や精密農業などの次世代に関わるテーマなどである。遺伝的スーパーカウとはどのようなものかを知る機会に恵まれたので、本稿と次回号でその点について論じたいと思う。ゲノミクスによって、どの程度の育種変化が生じるかを詳しく知ることができるのは、個々の染色体の構成すなわちハプロタイプが調べられるためである。この点については2011年に米国農務省が論文を発表しており、Journalof Animal Breeding and Genetics誌(128号446~455頁)に掲載されている。その論文では、3つの観点すなわち乳量、娘牛妊娠率(DPR)、生涯ネットメリット(NM$)に絞って行った牛の選抜を評価した。この分析では、潜在的な変動の下限値を計算するために、各染色体(乳牛には合計30組ある)のコピーのうちその品種の個体全体における最も良いものを取り出して、それを1頭の牛に移すとどうなるかを調べた。変動の上限値も同様の方法で計算したが、基本的に注目したのは全個体における最も良い遺伝子を取り出して1頭に移すとどうなるかという点である。ホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイスの潜在的なNM$の変動を、各品種の現在の最大値と共にグラフに示した。グラフからわかる通り、これらの数値はNM$に対する推定育種価(EBV)を示している。通常、種雄牛によって証明された育種メリットは予測伝達能力(PTA)で表され、その種雄牛のEBVの2分の1の値である。PTAを用いる理由は、我々の知りたいのはある種雄牛から生まれた娘牛の成績であり、父から子に伝わる遺伝物質は半分だけだからである。我々としては、娘牛の成績を知ることによって育種メリットの半分だけでなく全体を把握したいと考えている。頭数が多いほうが変動も大きいこの研究から得られた重要な結論として、頭数と品種が増えるほど変動の幅も広がるということが挙げられる。そのことはグラフからも明らかで、ホルスタインの下限値も上限値も、他品種を上回っている。今この計算をやり直したとしても、大差ない結果が出ると思われる。なぜなら遺伝子型を調べるサンプル数はジャージーとブラウンスイスのほうが多いためだが、それでもなおホルスタインのほうが有利である。もう一つの結論は、莫大な遺伝的変動がなお可能だということである。各品種を評価した結果、組み合わせが最適であれば現在の最高の牛のNM$は10倍にも達する可能性があると示唆されている。当然、個々の品種の特に優れたゲノム領域がある程度の交配や交雑によって混じり合う可能性はあるが、その際生まれうる最高の牛の姿はまだ示されていない。20,000 NM $では、ホルスタインでEBVが+$20,000NM$だとどのような牛になるだろうか。1つの可能性として、乳量が莫大に増えてその他のすべての形質も維持されることが考えられる。EBVが乳量で+60,000ポンド(27,200 kg )、脂肪について+3,000ポンド(1,360 kg )、タンパク質で2,250ポンド(1,020 kg )だと+$20,000NM$近くに達する。現在の平均的な乳牛で考えると、乳量は88,500ポンド(40,140 kg )、脂肪4.6%、タンパク質3.6%のレベルで、受胎性や健康形質も損なわれることがないということである。さらに興味深いのは、特定の形質としてたとえば乳量の改善のみに集中した場合どうなるかということである。予測では、遺伝上の潜在性としてさらに25,000ポンド(11,000 kg )から75,000ポンド(34,000 kg )まで上積みされる可能性があるとされている。一方、現在の乳量世界記録は年間75,000ポンドである。ということは、育種改良が進めば乳量記録は1回の泌乳期当たり100,000ポンド(45,000 kg )から150,000ポンド(68,000 kg )推定育種価$25,000$20,000$15,000$10,000$5,000$0に達する可能性もあるということである。さらに、受胎性の点でも大きな育種改良が望める可能性があり、予測妊娠率は最低50%に達すると見られている。育種改良のペースを考えると、明らかに進歩には時間がかかるだろう。現在の1年当たりのNM$はおよそ155である。このペースだと、50年かかってようやくホルスタインの変動の下限値に達し、150年で上限値に達する計算である。しかし、テクノロジーの発展によって育種改良のスピードは大きく加速する可能性もある。1つの可能性として、繁殖技術の進歩によって、受精卵から直接その子の代が生まれるようになり、現在見られるような世代間隔が劇的に短縮されるかもしれない。また、遺伝子編集技術の進歩のスピードもどこかの時点で飛躍的に伸びることが期待できる。育種上ならびに生物学上の限界育種選抜の限界は、必ずしも生物学上の限界と同じではない可能性がある。たとえば、ホルスタインのDPRの変動についての予測NM$に対する潜在的な遺伝的変動の予測値ブラウンスイスホルスタインジャージー現在の最大値下限値上限値ホーズデーリィマン第395号(2019)637